2024年3月8日
スキルと経験を活かした転職では、男女間の賃金格差が日本平均を大幅に下回る結果に
JAC Recruitmentが、支援実績をもとに女性人材の転職について調査
世界11ヵ国で人材紹介事業を展開する業界大手のJAC Recruitment(代表取締役会長兼社長:田崎ひろみ、以下JAC)は、2014年1月~2023年12月のJACの転職支援実績のデータを分析し、女性の転職動向をまとめました。
管理職や専門職の転職支援に強みを持つJACの転職支援実績から、以下2点のことが判明しました。
■男女間の賃金格差は約1割に縮小
JACが支援する求人は、スキルや経験、期待できる成果への対価として年収が決定する傾向が強く、性別や年齢が理由でないことが多いため、女性の平均年収は年々増え、男女間の賃金格差が縮小し、2023年度には10.7%になりました。
■男性の活躍が目立つ業界や職種にも、女性の転職支援数が増加
企業による職場環境の整備やダイバーシティ(多様性)の取り組みの推進により、男性の活躍が目立っていた業界や職種にも、女性人材の採用が進み、転職支援数が増加しています。
【調査背景】
2024年の国際女性デーのテーマである「Inspire Inclusion / 包括的な参加の促進」は、社会や組織におけるダイバーシティの重要性を強調し、包括的な環境を創り出すための行動を促すというメッセージです。これを踏まえ、JACが支援した女性人材の転職動向を調査し、女性の活躍の場の広がりや、また、企業や組織におけるダイバーシティへの取り組みの成果の発揮状況について考察を行いました。
【調査概要】
調査期間: 2014年1月~2023年12月
調査方法: JAC Recruitmentの転職支援データの分析
調査対象者: JAC Recruitment が転職支援をした男女
JACの転職支援実績における女性の転職時年収の推移
JACが転職を支援した女性の転職決定時の平均年収は、2014年の約560万円から2023年は約697万円と24%増加。またCAGR(年平均成長率)は女性が2.44%、男性が1.97%と、女性の伸び率の方が男性に比べて高い。下記のグラフに見られる通り、男女間賃金格差についても2014年の14.3%から2023年の10.7%へ、過去10年で3.6%縮小した。
平均決定年収
一方、経済協力開発機構(OECD)によると、右グラフの通り、2022年の日本の男女間賃金格差は21.3%、OECD平均で12.1%となっている。JACが転職支援する人材の男女間賃金格差10.7%は、日本全体における格差よりも大幅に少なく、かつ、OECD平均以上に縮まっている。
男女間賃金格差(2022年)
出典元:OECD主要統計
考察:JACの転職支援実績における男女間賃金格差が少ない要因
一般的に女性社員は、産休や育休でブランクが生じ、同じ社歴の同僚と同時期に昇格テストが受けられないなどの理由により、同じ社歴の男性社員に比べて昇進昇格が遅れる場合がある。結果として、賃金格差が発生することに繋がる。しかし転職に際しては、主に下記2つの理由から、それらの弊害が取り除かれ、その結果、賃金格差が少なくなっていると想定される。
■スキルや経験の重視: 管理職や専門職の求人は、性別や年齢にかかわらず、スキルや経験、そこから期待できる成果への対価として、年収が決定するため、採用の際、社内にいる同様のスキルや実績を有する人材と同等の賃金が設定される傾向がある。そのため、転職時に年収が上がることも多い。
■企業のダイバーシティへの取り組み: JACが採用支援する大手・中堅企業の多くはダイバーシティ推進に積極的に取り組んでおり、女性に対する平等な機会や報酬が提供されることで、男女賃金格差の縮小につながっている。
女性を採用する企業の特徴や、業界・職種に変化
かつては男性の活躍が特に目立っていた業界や職種にも、女性の転職支援実績が増えている。これは、各業界における特定の職種の人材不足や、企業のダイバーシティ推進などが背景となっていることが想定される。以下、特に女性採用が顕著に増えている業界について、考察する。
製造業界における女性の転職の特徴
製造業界のなかでも、自動車・自動車部品、化学、電気・電機、半導体の業界において、JACが転職支援をした女性の数が、右肩上がりとなっている。
技術の進展やビジネスモデルの転換により男女の体力差が影響する業務が減り、一方で事業環境の変化や速度が高まりイノベーションを生み出す必要性に駆られている。さらに労働人口の減少が進んでいることから、男性中心の業界においても女性を含む多様な人材の活用が、企業にとっての重要な経営課題となっている。
自動車・自動車部品業界
化学業界
電気・電機業界
半導体業界
業界別転職支援実績の推移(2019年の実績を1とする)
製造業界で女性の転職数の伸び幅が大きいのは技術系とIT系の職種
製造業界における転職先の職種については、技術系とIT系の伸び幅が大きい。これは主に自動車業界、または化学メーカーの技術職、およびいずれの業界でも求められているデータサイエンティスト、AIアプリエンジニア等の職種を指す。
技術系職種
IT系職種
職種別転職支援実績の推移(2019年の実績を1とする)
特にIT系職種の転職支援実績が増えているのは、以下2点が大きな要因となっている。
■業界のトレンド:データドリブンでの事業推進やDX(デジタルトランスフォーメーション)の内製化がトレンドになってきていることから求人自体が増えていること。
■在宅勤務での業務が可能な職種:実際に商品を触って開発する業務内容ではないため、在宅勤務が可能であることから、育児を行っている女性も働きやすい職種であること。
また、自動車・自動車部品業界の職種に限った傾向としては、EV・自動運転の開発や関連業務の取り組みが本格化していくにつれ、下記のような採用トレンドが顕著になってきた。
■転職希望者数の増加:これまで自動車開発の中心業務であった機械工学や電気回路設計だけでなく、EV・自動運転といった事業の展開により、ソフトウェアエンジニア、企画職やデータ分析職での女性の転職希望者が増えている。
■異業界からの採用:ソフトウェアエンジニア、企画職やデータ分析職は、自動車業界・自動車部品業界には経験者が少なく、必然的に異業界からの採用が求められる。
■外国籍の転職希望者も採用対象:優秀な人材を積極的に採用していきたい企業は、日本人に限らず、外国籍(インド、中国、東南アジア諸国など)も含め、条件を満たす人材を採用した結果、女性の経験者採用が増えている。
今後も製造業界ではSDGs/サステナビリティ経営を推進していくなかで、女性の転職は間違いなく増えていくと予想されるが、実際の転職支援の現場では、「女性だから採用される」という、いわゆる優遇条件はない。成果を出せると期待される人材は採用され、転職時に決定した年収における男女の差は、ほぼないというのが実状である。
IT業界における女性の転職の特徴
IT業界においては、エンジニア全般やプロジェクトマネージャー(以下、PM)、なかでもSI(システムインテグレーター)のPM職において、女性の転職支援実績が増えている。
IT業界の各社は、結婚や出産・育児といったライフイベントにおいても女性が働きやすくなる制度や環境の整備を、いち早く行ってきた。特にダイバーシティを推進する企業では、男女問わず、産休・育休の取得が推進されていたり、子供の面倒を見やすくするためにリモートワークを推奨したりと、ワーキングペアレンツに寄り添った制度や職場環境が、他業界に比べて早期に定着してきているといえる。
社内SE(アプリケーション)
IT系プロジェクトマネージャー
IT関連職種の転職支援実績の推移(2019年の実績を1とする)
IT業界で人材の流動化が活発な背景には、以下の3つの点があると思われる。
■「職種の特徴」ならではのキャリアパス:管理職にならずとも、専門分野のスキルと経験が充分にあれば、専門職として高額報酬が得られるというキャリアパスが定着している。
■エンジニア不足:2019年に経済産業省が公開した「IT人材需給に関する調査」では、2030年までに最大約80万人のエンジニアが不足する可能性を示唆している。具体的には、DX内製化に伴うWEBサービスの開発、IoT、AI、クラウドに関わるエンジニアなどが求められている。
■ITサービス・WEBサービスのユーザー層の変化:かつては限られた分野や若者だけのサービスだったものが、今では老若男女全般に広がっていることから、ITエンジニアにもダイバーシティの観点が必要になっている。
建築・不動産業界における女性の転職の特徴
建築・不動産業界では、建築系・ゼネコン系の職種である設計(意匠・構造・設備)、CM(コンストラクションマネジメント)、施工管理、研究などで女性の転職が増えている。
建築系職種
建築系職種の転職支援実績の推移(2019年の実績を1とする)
従来、建築・不動産業界は男性中心の職場であったが、本来は女性も活躍できる職種もある。キャリアを築きやすいうえ、産休・育休後に復帰しやすいという特徴がある。特に、ここ数年で飛躍的に伸びているのには、2つの背景がある。
■法令改正:建築・不動産業界は従来、残業が多い、土日祝日の出勤は当たり前、といった特性から、女性がライフイベントを迎えても働き続けられる職場環境ではなかったといえる。しかし、今年4月施行の時間外労働の上限についての法規制を含め、近年、法改正が業界全体で著しく進んでいることから、企業は職場環境の整備、改善が急務となっている。特にプライム上場企業や大手企業はいち早くこれに着手し、環境が整い始めており、男女を均等に採用できる土壌が整ってきているといえる。
■企業のダイバーシティへの取り組み:JACが主に採用支援をしている大手企業、特に不動産デベロッパーについては、社会貢献の一環としてダイバーシティ推進、なかでも女性活躍推進が急務となっている。そのため、一般的には求人票に求める人材の性別が書かれることはないものの、ポジティブアクションとして「女性の管理職ポジションでの募集」という表現が求人票にも書かれることがあり、女性の管理職の採用ニーズが、それほど高まっているといえる。
全国的に、主要都市の再開発計画は今後も続いていくため、デベロッパーを中心にゼネコン、PM会社など各領域での人材需要は引き続き増加傾向にある。
管理部門(バックオフィス)における女性の転職の特徴
管理部門(CxOクラス除く)は、従来、女性の採用が多いが、近年、いっそう女性の転職支援実績が増えている。顕著なのは、サステナビリティ推進室、ダイバーシティ推進室の室長や室長兼執行役員といったポジション。
現在、多くの企業がサステナブル経営を進める上では、ダイバーシティも重要な経営戦略の一部と位置づけている。ダイバーシティを推進するには、経営層へのコミットメントやリーダーシップなどのスキルだけでなく、CSR活動や、IR・広報などの社外への情報発信を担ってきた経験も重視されている。そのため、管理部門の経験者を、こうしたポジションに採用することで、経営の中核で女性が活躍する機会が増えている。
また即戦力の管理職となる40代~50代だけでなく、将来的な管理職候補として20代~30代の採用も顕著で、「女性管理職」として幅広く採用を検討したいという企業が多くなっている。
管理部門(CxOクラス除く)
管理部門の転職支援実績の推移(2019年の実績を1とする)
考察
ここ数年、特定の職種における人材不足や新規事業の立ち上げが相次ぐ中、既存社員にそれらに対応できる経験者がいない、または既存社員の育成に時間がかかるといった理由から、社外から経験者を採用するケースが増えている。よって特定のスキルや経験を持つ人材は転職によって市場価値が適正に測られ、需要の高い業界や職種に採用されることで市場価値が上がり、結果、年収が上がることもある。
実際、JACの転職支援実績に見る男女間賃金格差は一般の格差よりも少なく、JACの主力領域である管理職と専門職の転職においては、男女関係なく、スキルや経験、そこから期待する成果に対して年収が設定されている傾向が強いことが分かった。
このような、新しいことへの挑戦や収入アップを伴う転職によって人材の流動化が進んでいき、組織や業界に適切な人材が配置されることで、生産性やイノベーションの向上、労働市場の活性化などの経済効果が期待できるといえる。