半導体業界の採用市場動向
世界的な半導体不足の中でも、半導体業界の採用需要は高く、海外とも取引できる人材の採用ニーズも出てきています。半導体業界には、半導体デバイスメーカーや半導体製造装置メーカー、そして半導体もロジック系からアナログ・パワー系などさまざまな職種がありますが、JAC Recruitmentは半導体の専門チームがあり、ほぼすべてのメーカーをカバーできる体制を整えています。
JAC Recruitmentの半導体チームが半導体の採用市場動向を解説します。
半導体市場は採用活動が活況
半導体業界の採用市場は、非常に好景況な状況にあります。グローバルな半導体市場は今後も右肩上がりで、100兆円規模の市場成長が見込まれています。その中でも特にIoT技術やデータセンター、5G通信、インフラ設備といったところで使われている半導体が好調で、今後もAI技術やスマートシティ、そしてその先の自動走行、ロボティクスといった領域での利用が拡大されていきます。
日系の半導体デバイスメーカーというと、ロジック系/メモリ系/アナログ・パワー系と、半導体の種類によって3つに大別されています。この3つのカテゴリーの中で職種としては回路設計やソフトウェア設計といったポジション、またそこをアフターフォローするFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)といったところまで、非常に幅広いエンジニアに対して採用の動きが出てきています。
2013~14年頃の半導体不況と言われた時代に比べると、4~5倍の採用求人数があり、世界的な半導体不足の中で、半導体を供給する側のメーカーが開発のためのエンジニアを採用しているという状況です。半導体不況を経験したことで、特に日系の半導体メーカーは事業をスリム化しているところが多く、必要なところに人的リソースを集中させるという採用を行っています。
半導体デバイスメーカー、製造装置メーカーの最新採用トレンド
半導体デバイスメーカー、製造装置メーカーは、いずれも好景況にあります。グローバルにみても、例えば台湾の大手デバイスメーカーか日系の半導体製造装置メーカーに対して、設備投資をしてでも供給量を増やしてほしいというオーダーが出ています。特に半導体製造装置は、日系メーカーの寡占状態と言ってもよい状況であり、業界の中で強い存在感を出しています。
デバイスメーカーでは1~2年後にやりたいことを実現するために人材を採用したいという温度感の企業が多いのですが、装置メーカーでは5年後10年後の企業課題を解決できる人が求められています。装置メーカーではアフターマーケットも収益源にしたいという流れがあり、マーケティング、営業、フィールドエンジニアも採用したいという話が実際に出てきています。入社後に組織の核となれるような20歳代後半から40歳代前半の方を採用したいというニーズが多くなっています。
ファブを持っている半導体デバイスメーカーであれば、プロセス開発や生産技術、デジタル・アナログ回路設計といったエンジニアの採用が中心です。ただアナログ回路設計に関しては、単に基板の設計ができるエンジニアではなく、半導体素子そのものの設計ができるエンジニアの採用を進めている傾向にあります。27、8歳から50歳代前半まで、特に即戦力となるミドル層以上の採用ニーズが強くなっています。
また製造装置メーカーに関しては、次にくる半導体プロセスをどうするのか、これまでの製造プロセスの微細化という流れから、回路の3D化へと技術構造が変化しつつあるので、そこにどうキャッチアップしていくのかということにフォーカスした採用が増えてきています。
半導体の3D化は、半導体デバイスメーカーが主導している流れですが、それに伴って製造装置メーカーも含めた形で、技術革新が進みつつあります。採用市場においても、材料メーカーの技術者がデバイスメーカーや製造装置メーカーに移って、3Dのプロセスを研究するなど、人材の流動性が出ているのが特徴です。好景況にあるということで、半導体業界としては安定していますが、最新の技術トレントに追いつかないとジリジリと負けていくという危機感を持っている企業が多いように見受けられます。基本的には4~5年後の需要を読みながら、必要な人材を確保しようという採用トレンドが見られます。
デジタルの領域といった観点では、スマートファクトリーや、装置の予兆管理、故障診断という視点からデータサイエンスを手掛けたり、データを解析したりするための人材の採用ニーズも出てきています。製造装置には多種多様なセンサーが取り付けられていて、無数の生データが取得できるというのが製造業の面白いところでもあります。そうしたところで生データを扱って、データサイエンスやスマートファクトリーに役立てる、自分たちのプロセスの改善につなげていくといった、付加価値を生み出すことにチャレンジしたいという人材への採用需要が増えてきています。
外資系の半導体メーカーの採用トレンド
日本に拠点をおく外資系の半導体メーカーは、これまで単に営業窓口を置いたり、生産ラインをもつデバイスメーカーをM&Aをしたりといった動きが中心でしたが、ここにきて日本に開発拠点をおいて、製品開発を手掛けるという動きがあります。
この背景には、グローバルに半導体関連のエンジニアが不足してきていることと、元来日本の得意分野であったアナログ回路設計ができる優秀なエンジニア採用しようとしていることが背景にあるようです。
外資系の半導体メーカーは、設計人材が不足しており、設計の経験が豊富にある50~60代の方々を採用するという求人も見られます。
こうした人材不足という状況が長引くにつれて、海外の設計ベンダーに仕事を出すような流れが生まれています。それに伴って日本には優秀なプロジェクトマネージャーがいるだろうという前提で、英語ができるプロジェクトマネージャーの採用ニーズが出てきました。インドを舞台にオフショア開発ができる人、アメリカにある開発チームを日本にいながらリードできる人を採用したいといった求人が実際に出てきており、ビジネスレベルの英語ができて、かつリーダーシップが取れるような方に対する採用ニーズが高くなっています。
地方の半導体メーカーの製造工場における採用トレンド
半導体メーカーでは、地方でデバイス開発をする企業が増えてきたこともあり、地方でプロセス開発、生産技術、デバイス開発できる人の採用ニーズが出てきています。最先端の設備は地方の工場に設置されることが多いため、プロセス開発のエンジニアであっても地方勤務としての採用というケースは少なくありません。
人材不足から半導体業界以外の異業界からの候補者を採用する事例も
即戦力となる半導体業界内での人材採用はもちろんですが、他業界から有機合成や無機材料のバックグラウンドや製造プロセスに関連した技術者も採用されています。また、液晶ディスプレイの開発に携わっていた経験があれば、一部プロセスが半導体の前工程と似ていることもあり、採用事例が出ています。
実際に、ガラスメーカーで材料開発をしていたエンジニアが、無機材料を扱っていたというバックグラウンドをいかし、半導体メーカーに採用され、より上流においてプロセス開発に携われるようになったという採用例もあります。また、セットメーカーで半導体デバイスを選定して回路設計をやっていたエンジニアから、半導体メーカーのアプリケーションエンジニアとして採用された事例もあります。
半導体業界は業界全体として人手がまったく足りていないことから、大学の研究室などで半導体に関するアカデミックな研究をされていたような方、教授職を目指しているような方を採用しようとしている企業もあります。半導体を製造するときの真空プロセスや雰囲気ガスの研究、イオンビームから流体力学まで、さまざまな専門分野の研究にかかわる人材に対する採用ニーズがあります。たとえ直近の研究が半導体と直接関係していなくても、研究したという経験がある30歳代前半くらいの人材であれば、採用したいというニーズも出てきています。
半導体業界以外からの採用という視点では、半導体の製造には非常に精度の高い制御が必要になることから、ミクロンのレベルでの高精度な制御ができるロボットエンジニアに対する強い採用ニーズがあります。
また、製造プロセスのIoT化も進んでいるので、例えばSQLを使った開発経験のあるITエンジニアといった方でも、製造業に興味があれば採用したいというニーズも出てきています。