製造業界の採用市場動向
製造業界の最新動向
現在の製造業界は、中途採用が非常に活況といえます。特にこれからは「ハード×Digital」といった領域への変革(製造業のデジタル化)が求められています。
電気系が昔からあるPLC(Programmable Logic Controller:生産設備を制御する装置)という技術を究めるといったところから、工程に設置したセンサーからのデータを収集してスマートファクトリーにつなげ、プロセスの見える化に取り組むという流れなってきています。
ソフトウェア系もこれに連動する形で、通常であれば組み込み開発や生産管理と表示などを扱うエンジニアが中心だったところから、データベースを扱えるような人材が求められています。
品質保証・品質管理(QA・QC)の最新動向
大手企業による検査不正や品質偽装問題が発覚すると、たいていの企業はビジネス的に大打撃を受けることになり、深刻なケースでは経営破たんにまで追い込まれるおそれもあります。そのような背景を受け、製造業は品質評価や体制に関して非常にナーバスになっており、品質保証・管理部門は非常に注目を集めているポジションともいえます。
調達購買(SCM)の最新動向
SCM(Supply Chain Management)自体は、製造業では数十年前から変わらずにある職種ですが、近年ではモノの調達に加えてソフトウェアの調達が、新しい要素として求められています。日系の製造業ではこれまで生産管理、製造、生産技術などの各部門で、独自のシステムを部分最適しながら開発・導入してきた企業が大半です。
DXによって、製品開発において数十年間メカトロで制御していたプロセスが、ソフトウェアによる制御へと変わりつつあります。こうした変化に対応するためのSCM職の社内リソースが不足しており、補強するために外部から人材を採用しようという動きがSCMの求人として表れています。
また現在、モノの調達に重大な影響を及ぼしているのが、世界的な半導体不足です。半導体デバイスを調達してモノ作りをしている自動車を始めとした各種製造業で、半導体不足によって受注が止まってしまうという事態が起きています。こうした状況下で、必要なデバイスを調達しなければならないソーシングチームのSCMは困難を強いられています。足の長くなっている部品の納期をどれだけ縮められるのか、購買担当であるSCMには今までの購買実績とインセンティブを含めた価格交渉力が求められており、営業力と交渉力がものをいう状況にあるといえるでしょう。
製造業におけるSDGsの取組み
多くの企業で「サステナビリティ」「SDGs」への意識が高まっています。
2021年6月に、東京証券取引所(東証)が金融庁と共同で定めている企業統治に関するガイドライン「コーポレートガバナンス・コード」を改訂。その中でも「サステナビリティ」が主要項目に取り上げられています。
また、2022年には東証の市場区分が再編され、一部上場企業が「プライム市場」へ移行。プライム市場の上場企業には、地球温暖化による経営リスクや環境対策などの開示が求められていることも理由のひとつです。
こうした背景から、通常業務で「環境安全」「労働安全」などを手がける社員がサステナビリティ推進担当にアサインされて部門異動する、あるいはプロジェクト単位で活動するといった具合で、大手製造業では「サステナビリティ推進室」などの専門部署や、社内横断でサステナビリティの課題に取り組むプロジェクトを立ち上げ、対応しています。中途採用市場にこの分野の専門家や経験者が少ないため、既存社員をSDGs推進担当者にアサインし、専門知識をインプットする方向で動いている大手企業が多いです。もちろん、社内での人員手配が難しい場合は、中途採用も行われています。
製造業界の採用動向
製造業では、いわゆるDigital人材(IT人材)と言われる方の求人案件が非常に増えており、約50%がデジタル系求人となっています。
これからの日本の製造業のメーカーは、ものづくりだけではなく、「ハード×ソフト」で新しいビジネスを展開していく必要があります。それを実現できるデジタル人材が製造業の現場では求められています。現在の日系製造業大手では、ハードの人材はいてもソフトの人材が社内にいないといった課題があります。それは、IT分野を外注化(アウトソース)する流れがあったためだとされています。しかしこれからは、多くの企業がIT人材を社内に取り込んでいこうとする動きが加速していくと見られており、採用活動が活発化しています。
また「デジタル人材が欲しい」という採用ニーズがあるものの、ある程度年齢で年収は決まってしまう、といった人事制度が邪魔をしており、優秀な経験者を確保できないといったことが明確になってきています。そこで最近では、たとえば30歳で年収1,000万を出せるようにするなど、人事制度の変更を試みているような企業も増えており、一見堅いと思われているような製造メーカーでも、柔軟な対応を取り始めています。
品質保証・品質管理(QA・QC)の採用動向
特定の技術分野や部品単体の品質を評価してきた経験より、モジュールやシステム単位で品質を評価してきた経験のほうが採用ニーズが高い傾向にあります。例えば電機メーカーが、自動車に参入しようとしている時であれば、自動車メーカーでの品質保証・管理の経験者を採用するといったケースもあります。
特に近年は、変化が激しい国際品質規格への取り組みの経験者を採用しようという動きも見られます。欧州のRoHS指令とREACH規則への対応経験も高く評価されます。
顧客のクレーム対応を含む品質保証についていえば、顧客に対する「説明力」と「要求事項の理解力」を求める企業が多くなっています。そのためクレーム対応などの経験年数や仕事内容が重視される傾向があります。
さらに、特定業種や製品に特化した知識ではなく、クレーム対応そのものへの経験やノウハウが採用に有利に働くことが多くなっています。コミュニケーションの巧みさや器用さ、メンタルの強さが要求されるといえます。例えば、顧客クレーム受付で炎上してしまった状況が終息するように、傾聴しながらうまくコミュニケーションを取るスキルは高く評価されます。
またさまざまなステークホルダーと接しながら、課題を解決していくという性質上、主体的に行動できるマインドセットが求められる職種です。
海外拠点での品質現地化が求められている背景から、英語でのコミュニケーションにあまりストレスを感じずに行えることも必要になります。流暢に話せる必要はありませんが、TOEICのスコアにすると600~800点が1つの目安です。ただし、最近の傾向ではスコアではなく、実践的な英会話能力を重視する企業が多い傾向にあります。
調達購買(SCM)の採用動向
DXによって、製品開発において数十年間メカトロで制御していたプロセスが、ソフトウェアによる制御へと変わりつつあります。こうした変化に対応するためのSCM職の社内リソースが不足しており、補強するために外部から人材を採用しようという動きがSCMの求人として表れています。
調達は製造業においてオーソドックスな職種だと言えますが、世界的な半導体供給の逼迫にあっては、コストや納期という単純な話はもはや通用しません。本来、SCMの購買というポジションはコストダウンに紐づいていますが、この状況下では安く仕入れることよりも、安定して調達できることが重要視されます。取引に際しても、相手企業に自社と組むことによる技術的なメリットを示すなど、より相手の懐に入り込んだソーシングができるSCM人材が求められています。
単に購買経験者というより、対象分野の技術に精通している、前職で築いたサプライヤとの太いパイプを使って確実にモノを買える、高い交渉力を持ち、相手と駆け引きができる力があるリーダークラスが欲しいというSCMの求人が増えています。マネジメント経験よりも、開発購買として設計者としっかり話ができる方のSCM求人が増えています。購買としての経験が無くとも、営業職として強くお客様と交渉してきた経験や、特定の技術分野に詳しい、あるいはサプライヤの役職者とつながるパイプがある方は採用されています。
調達購買(SCM)には英語力が欠かせない
SCMの購買担当にとって、語学力は必要なスキルです。日系メーカー・日本に拠点を置く外資メーカー問わず、調達先は日本国内のみと言う事はほぼ無く、世界中から購買する事になります。また購入部品によって、中国か、台湾か、マレーシアが良いのかといった目利きができるかどうかがSCM職には重要です。IT関係なら、オフショアとして中国とインドが強く、さらにアメリカ、イスラエル、台湾が交渉相手になりますので、SCM職にはビジネスレベルの英語力は必須になります。
調達購買(SCM)のハイクラス転職事情
SDGs(持続可能な開発目標)が注目され、製造業においても、モノを作って捨てていくという消費型から、再生利用する循環型への変化が求められています。自社が地球環境に配慮するだけでなく、配慮している企業を選定して、その企業から調達をするといったことも求められています。このような背景から、日系大手製造業の購買戦略では、環境問題や政治的な絡みも含めた、さまざまな要素を考慮したうえで、モノを調達するのがトレンドになってきています。
購買企画、調達企画といった立場になると、こうした世の中のトレンドに合わせた調達戦略が必要になります。安い部品を大量に買ってきて在庫するのではなく、必要な部材は調達するが、在庫を抱えすぎないよう、事業戦略に近い目線で調達戦略を考える。全体を俯瞰して見られるSCM人材が求められています。
自動車業界の最新動向
自動車業界は大きな変革期を迎えています。「CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared&Service:シェアとサービス、Electric:電動化)」という大きな潮流を受け、取り組みが加速しています。昨今は「脱炭素化」に向け、EV(電気自動車)開発を強化。「モノ作り」から「移動サービスの提供」へと概念がシフトし、「MaaS(マース:Mobility as a Service)」の事業開発にも取り組んでいます。
自動車業界の採用動向
海外の自動車メーカーの台頭により、日本メーカーとしてはシェアを守るための重要な局面を迎えています。インターネットに接続する「コネクテッドカー(通信機能を備えた車両)」領域では、競合は自動車メーカーだけでなく、データ活用に長けたIT企業でもあります。
そこで、ソフトウェアエンジニアやデータ活用のスペシャリストの採用が活発化しています。そのほか、電気系、電池技術を持つエンジニア、モビリティサービスなど「コト作り」を担う企画職など、多様な職種・ポジションで採用が積極的に行われています。
変革期にある自動車業界では、多様な業界から人材を迎え入れています。自動車に携わった経験がなくてもITの知見・スキルをもつ方が求められているほか、電機・化学・設備・消費財など各種メーカー、エネルギー企業、商社などからの採用事例も多数あります。
職種別自動車業界の採用動向
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアは、車載系組み込みエンジニア、コネクテッドサービス領域のインフラエンジニア、アプリケーションエンジニア、データサイエンティスト、セキュリティエンジニアのほか、生産部門・事業部門のDXを推進するエンジニアまで、多方面で採用ニーズがあります。
採用対象は幅広く、SIer、自社プロダクトを持つSaaS企業、メーカーやサービス企業のIT部門など、さまざまな分野の経験者に門戸を開いています。例えば、組み込みエンジニアについては、家電・複合機・医療機器など、ハードウェアを動かした経験をもつ方が特に求められています。デジタルコックピットの開発では、ゲーム業界で培ったスキルも生かせる可能性があります。コンサルティング業界でテクノロジーに携わっていた方が採用された実績もあります。
自動車業界全体に、ソフトの内製化を進めたいとする意向があるため、いずれの領域においても上流工程はもちろん、開発現場に入り込んでプロジェクトを進めた方、自らコーディングも行っていた方が求められています。
また最近の傾向として、40代以降の方の採用事例も増えており、ミドルクラス・ハイクラス層が以前に増して求められています。
ハードウェアエンジニア
ハードウェアエンジニアでは、回路設計(デジタル/アナログ)、車載部品の機械設計、電池のユニット部品開発など電気系・機械系の採用が活発です。
EV関連では、熱マネジメントの知見をもつ方が採用ニーズが高く、サプライヤー側ではセンサー部品開発エンジニアも求められています。これらのポジションでは、ほとんどが自動車や電機メーカーで経験を積んだ方が採用対象となっています。
生産技術
量産化、品質管理を担う生産技術では、自動化を推進できる方が求められています。ファシリティ、物流、Co2排出削減などの領域に強みをもつ方も経験をいかすことができます。
生産技術職では、幅広い分野の方が採用対象となります。自動車業界はもちろん、電機メーカー、化学メーカー、設備メーカー、消費財メーカー、ゼネコン、交通インフラ企業などから採用事例があります。
事業企画
モビリティサービス、エネルギー領域、物流などの新規事業開発が進められており、事業企画職の求人があります。車両データを活用した地域創生事業などのプロジェクトも立ち上がってきています。このポジションでは、ゼロから企画を立て、社会実装まで経験してきた方を採用したいと考えているようです。
モビリティサービスの企画職では、完成車メーカー出身の方、 SIer などで他社と共同でモビリティサービスのプロジェクトに携わっている方、モビリティサービス関連のアプリなどの開発企業で経験を積んだ方、商社出身の方などが採用対象となっています。
エネルギー関連の新規事業では、エネルギー企業や重電メーカー出身の方の採用ニーズがあります。
「カーボンニュートラル」実現を支える職種
EVの普及に向け、安全・高性能の電池開発も急務となっており、電池関連技術者の採用も活発となっています。「カーボンニュートラル」の課題に向き合い、新エネルギーの活用を推進できる人も求められています。
電気・重工業の最新動向
既存事業では、エネルギー関連事業が「脱炭素」への取り組みをはじめ、EV(電気自動車)やデータセンターといった成長分野、防衛などの事業拡大を図っています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進においては、社内全体のシステム刷新・浸透(ガバナンス、育成等)や営業の効率化のため、デジタルの活用(CRM等)を強化しています。
新規事業については、「宇宙」「医療」「農業」など、自社がこれまで手がけていない領域での新規事業開発を進めています。
こうした背景から、多様な職種・ポジションの求人が出てきており、異業界からの転職も活発化しています。
最近顕著になってきたもう一つの傾向として、IoTの普及に伴ってクラウドサービスに関連したデータセンターが新設、増強されていることです。大規模なサーバーシステムが稼働するデータセンターは大電力を必要とするため、関連した強電系エンジニアへの求人も目立つようになってきています。
また重電・重工メーカーにおいてもここ数年で転職が一般化し、20代から50代まで幅広い年代の方々の転職が増えてきました。コロナ禍で「在宅勤務」「オンライン面接」が定着したことから、面接を受けやすくなり、転職活動の動きが活発化しています。「自分の市場価値を知りたい」「他社からどう評価されているか確認したい」と応募に踏み切るケースも見られます。
重電・重工メーカーで経験を積んだ方々は、電力会社や事業会社など「発注者側」の企業やプラントエンジニアリング会社などの「EPC事業者」からの採用ニーズも高く、転職する方も多くなっています。
もちろん、発注者側企業やEPC事業者から重電・重工メーカーに転職する方々もいらっしゃいます。機械・装置・電子部品・自動車・化学などのメーカーから重電・重工メーカーに転職するケースや、重電・重工メーカーで勤務し、その後コンサルティングファームで経験を積んだ方が重工・重電業界へ「DX担当」「事業企画」などの職種で戻っているケースも多く見られ、業界をまたいだ転職が活発化しています。
電気・重工業の採用動向
機械設計・電気設計・品質管理/保証などは同業界・隣接業界での経験者を採用する傾向がありますが、「DX」「新規事業」に携わるエンジニアや企画職などは自社にない知見を求めているため、異業界出身者も採用ニーズが出てきています。年代でいうと20代のメンバークラスから30代~40代のリーダークラス、40 ~50代の管理職まで幅広く採用されています。
自動車のEV化に伴い、これまで強電関係の知見が全くなかった自動車メーカーや部品メーカーから、数百ボルトの電圧を扱うEVバッテリー周りの強電設計ができるエンジニアの採用が増えています。また、それに対応するインフラ側として、急速充電機などの設備機器メーカーからも活発な求人が出ています。
「調整力」「協調性」「主体性」が重視される
企業規模が大きく、他部署との連携が欠かせないことから、職種問わず「調整力」「協調性」のある方を採用されるケースが多いです。
面接では「これまでにどのような場面でどのように連携・協働してきたか」、ビジネスサイドの方々の場合は、工場との折衝経験があるかどうかを確認しています。
また、自ら判断して主体的に動ける力も重視されます。重電・重工メーカーは、企業規模の大きさから「トップダウン型の組織なのではないか」というイメージを持たれることもあるのですが、全体規模は大きくても事業規模が多岐にわたるため、個々の部署を見ると少人数で運営していることもあります。そのため、指示を待って動くのではなく、能動的に行動を起こせる方が歓迎されます。
職種・ポジションによっては「英語力」も必要
いずれの企業もグローバルに事業を展開しているため、「英語力」も採用ポイントの一つです。
求める英語レベルは職種・ポジションによって異なります。技術職であれば「仕様書を読めれば可」とすることもある一方、新規事業企画であれば海外マーケットの開拓や海外企業との連携も見据え、高度な英語力が求められます。管理職や管理職候補では英語力を必須とする求人が多くを占めます。
入社時には英語力不問でも、社内の昇進試験の際には一定レベルのTOEICスコアをクリアする必要があるため、英語学習への前向きな方を採用する傾向にあります。
柔軟な給与形態
製造業ではIT専門職を採用するために、既存の給与テーブルに当てはめず新たな報酬体系を設ける企業が増えています。重電・重工メーカーにおいてもそうした動きが出てきています。自社にない知見・スキルを持つ方であれば、リーダークラスでもマネジャークラスの報酬を適用するなど、柔軟な対応が見られるようになっています。
なお、重電・重工メーカーにおいては、給与以外の「福利厚生」も魅力のポイントです。社宅や住宅費補助をはじめ福利厚生が充実しているため、転職によって年収が変わらない場合であっても、可処分所得が増える可能性があります。