金融業界の採用市場動向
金融業界では、この2~3年においては異業界から金融業界に参入してくるケースが多くなっています。特にIT系の企業やEC系の企業が決済事業に参入する際に、「誰か専門人材はいないか?」という採用相談を多くいただいている状況です。
また現在、さまざまな中小企業にて後継者不在が問題となっています。そのような背景から、M&A仲介会社への注目度も高まりを見せています。
ここでは金融業界の最新採用トレンドについて解説します。
金融業界最新トレンドキーワードは「ESG投資」、「デジタル証券」、「異業種参入」の3つ
金融業界の最新トレンドについてご説明します。特に盛り上がっているのが「ESG投資」、「デジタル証券」、「異業種参入」の3つです。
ESG投資とは
SDGs(持続可能な開発目標)をもう少し企業目線にしたような概念で、「Environmental(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(ガバナンス)」の3つの要素を考慮して企業を評価し、環境負荷の低減や社会的な貢献、適切な企業統治を重視する投資のことです。金融機関や投資家が企業のESGについての情報を評価し、その情報をもとに投資判断を行う傾向が高まっています。
デジタル証券とは
デジタル証券とは、ブロックチェーンを使って有価証券をデジタル化することで、金融機関を介さない資金調達を可能にする技術です。従来の証券取引に比べて取引速度が高速化され、取引の透明性が高まるという特徴があります。デジタル証券によって、上場していない企業や個人であっても直接支援できるようになります。デジタル証券を専門に取り引きするための"デジタル証券取引所"を開設する取り組みも進んでいます。
金融業界では、デジタル証券に関するサービスやプラットフォームの開発に注力しており、関連する人材の需要も増加しています。
異業種参入とは
異業種参入とは、異なる業種や業界から金融業界に参入することを指します。大手ITプラットフォーマーが決済サービスを提供しているスタートアップを買収し、自ら決済事業を手掛けるということがニュースになりました。IT企業以外でも、事業を多角化して金融サービスに参画し、既存ビジネスの行き詰まりを解消したいと考える企業が増えているようです。
近年、金融業界においては新たなビジネスモデルやテクノロジーの導入が進んでおり、他業種で培ったノウハウや技術を金融業界に活かすことが求められています。異業種出身の人材が金融業界でキャリアを築くことが増えており、業界の多様性や競争力の向上に寄与しています。
金融業界の採用トレンド
銀行の採用トレンド
銀行では昨今、専門部署を設けるなどして、取引先企業のSDGs関連施策を支援しています。これは、すべての上場企業が「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」への対応に迫られており、2024年以降はガバナンスやリスク管理に関する情報開示がより厳しく求められることが背景にあります。こうしたことから、事業会社の統合報告書作成支援の採用ニーズが数年前から出てきており、2024年以降も拡大していくと見込まれます。
このほか、サステナブルファイナンス、リスク管理などの採用ニーズが高くなっています。また、SDGs関連の新規ビジネスを創出・推進するポジションのニーズも増えており、金融業界未経験でもSDGs関連の知見を持つ方を採用する動きがみられます。
不動産会社の採用トレンド
不動産会社は、ECにおける日用品の売り上げ拡大により、それをストックするための物流倉庫を取得するニーズの高まりから盛り上がりを見せています。5年程前から、EC売り上げの増加に伴ってこうした傾向はあったのですが、2020年以降は急激に流れが加速しました。そのため、不動産会社では強力な営業チームを構築するために、銀行で富裕層の方向けに不動産の金融商品を販売した営業経験者や不動産に関する知識・経験を持つ人材の求人が増えています。
同様に、不動産を証券化するビジネスを展開している企業についても、採用ニーズが多くなっています。また、不動産証券化が注目されており、その市場の成長に伴い、不動産証券化の専門知識を持つ人材の需要も高まっています。
事業会社の財務担当の採用トレンド
事業会社の財務担当の求人が増えているのは、先にご紹介した、異業種から金融ビジネスへの参画が増えていることが理由です。異業種の企業が金融ビジネスに参入する場合、社内には金融について専門的な知識を持っている人材がいないことから、新しい事業展開やM&Aなどの戦略的な活動をサポートでき、財務面での専門知識や経験を持つ人材を採用する動きが活発です。
アセットマネジメント会社の採用トレンド
アセットマネジメント会社の採用ニーズについても、先にご紹介したデジタル証券の盛り上がりにより、新たなビジネスモデルやテクノロジーの導入が進んでいることが理由となります。
そのため、デジタル証券の取引やブロックチェーン技術に関する知識や経験を持つ人材の需要や、デジタル証券業務を行うために通常の資産運用や証券化ビジネスの経験がある人材の需要が高まっています。また、アセットマネジメント業界では、グローバルな展開や新たな投資商品の開発に関わる人材も求められています。
アセットマネジメント会社ではESG投資が拡大しており、ESG投資に絡むアセットアロケーションに注力しています。そのためアセットマネジメント会社ではファンドマネジャーの人材ニーズが堅調です。
M&A仲介・コンサル会社の採用トレンド
地方では、経営者の高齢化により事業承継支援が活発化しています。これを支援するのがM&A仲介会社、M&Aコンサルティング会社となります。
M&Aを手がける企業が増加し、件数も急増していることもあり、若手人材の採用が活発化しています。特に金融機関で法人営業の経験を持つ20代の方が歓迎されるだけでなく、入社段階では財務関連知識を必須としていないことから金融業界未経験の20代の方々の採用も多くなっています。
金融機関の採用トレンド
政府が「NISA」「iDeCo」などを推奨する動きもあるように、「貯蓄」から「投資運用」への移行によって個人の資産形成を促進する支援が活発化しています。金融機関においても、子どもからシニアまで幅広い世代に向け、金融リテラシーを高めるべく「投資教育」を行っています。
この動きにともない、個人向けに資産運用の提案・アドバイスを行うポジションの採用ニーズが高まり、株式・投資信託・保険など、金融商品に関する知識を持つ方が求められています。
またデジタル証券取引所の稼働にともない、個人投資家の投資対象が拡大していくなか、投資や資産運用などのサービスを手がけるIT・ネット企業はさらに増え、金融事業への参入企業が増えることから、「コンプライアンス」「監査」の求人ニーズも高まることが予測されます。
フィンテック領域の採用トレンド
金融機関では、新規事業と既存事業の両方でデジタル化が進んでいる背景から、プロジェクトマネージャー(PM)の採用ニーズが非常に多くなっています。古いシステムを新しいものへと刷新するマイグレーションに関するプロジェクトが多いため、全体最適を考えてシステムの要件を定義できるITアーキテクトのスキルを持った方の採用需要も伸びています。
また金融機関では長らくシステム開発・運用を外部のSIerに依存してきた結果、内部にノウハウが蓄積されずベンダーを適切にコントロールできなかったという背景があり、内製化が進んでいます。デジタル関連の投資も3年間で1.5倍、1000億円規模まで増額するケースや、中途採用の人数も年間一桁から数十人に増やすなど、各社とも積極的に異業界からの採用を進めています。今後はデータエンジニアやデータサイエンティスト、データアナリストなど、データ関連の採用の増加が予想されます。
サイバーセキュリティ関連の採用も非常に活発です。近年、複雑化するサイバー攻撃に対応するべく、独自にSOC(Security Operation Center)を内部に設ける企業も増えています。
一方で新規事業領域では、0→1の事業立ち上げを経験した事業企画・開発人材を積極的に採用しています。とりわけヘルスケア、モビリティ、デジタル関連のビジネスの事業会社で新規事業をリリースし、マネタイズまで実現した方の市場価値は高く、金融機関でも新たなビジネスに関われるポジションが多数あります。
デジタルを活用した業務改善や最適化を図る企業も多く、BPR関連の求人も多数あります。金融機関は課題解決能力に長けた人材育成に後れを取っていた背景から、中途採用に力を入れており、主にコンサルティング業界から転職する方が活躍されています。